岩波観音
岩波観音
松尾山観音---安養寺---常善寺---国道十三号・東青田交差点---滝山公民館---東北芸工大---大橋---石行寺・岩波観音---山形六中---光禅寺---六椹八幡宮---六椹観音---自宅
 九月二十二日。最上巡礼十二日の三つ目、遂に打ち止め石行寺。と云うて浮かれぬように慌てぬように、と黙って念を押す。光姫の物語にも登場する安養寺、背広姿が独り石段を登ってゆく半郷熊野。成沢千手は麓で一礼、通りがかりの子と足を止める常善寺の地蔵尊... 徒歩巡礼を始める前日にちょうど、岩波観音の月々の護摩会があった。明日からの長い道程を思うに、妙な切迫感を抱いたまま炎を見詰めていた気がする。それから二か月、業務の隙は山歩きに替わって巡礼行となった。前夜は地図の確認と支度に追われ、早朝に発ち、帰宅して記録を整理し、夜半から業務の準備に取り掛かる。案外に忙しかった...
 強風尽きぬバイパスを離れると、岩波まで上り坂が延々と続く。新興住宅街の硬直した景色を足早に抜けて、ふと立ち止まると杖の頭にとんぼが止まった。久方ぶりの龍山川、岩打つ波も響きもやや大きめ... 行基菩薩開山で慈覚大師中興の古刹石行寺。境内の墓地には彼岸の供花が新しく、動物供養の塔にも猫用犬用缶詰さまざま。本堂から和讃の合唱が途切れがちに聞こえ、観音堂に落ち着いた。願意を申すより先に、まず無事三十四所を巡り果せた事に手を合わす... 住職は合唱練習の指導中だとか。玄関で少し休ませて頂いた後、冷えた緑茶まで頂戴した。札所は巡り尽くしても之で終りでは無い、自宅まで歩き着いて了とする。途中、納め参りに六椹へ...御詠歌、みな人のあゆみをはこぶ岩波の 誓ひはつきじ苔のむすまで。
 初めは菅笠道中に気後れする処が無かった訳ではない。それも覚悟の事と踏ん張りながら、いつの間にか何処でも淡々と歩くようになっていた。異形にもかかわらず挨拶や会釈を交わしてくれる人々の、至って多かった事が少しずつ、静かな励みになったのは間違いない... 全行程十二日、歩行約三三五キロ。毎度日帰りの制約下、二か月間に収まったのは良としよう。次の五巡目と限らないが、また歩く事はあるだろうと思う。その時は行程に改善の余地があり、或いは全く番号順に辿るのかも知れないし、純然と十余日通して歩くのかも知れない... ともあれ一巡は一巡。四輪であれ二輪であれ徒歩であれ、普門示現の神通に差もあるまい...
 六椹を前にして、小学生が一団で帰る場面に当たった。こちらを見つけて時代劇かアニメかと見当違いな歓声が上がる中、少女の諭すような声「あれは旅をしているんだよ」。まだまだ、自分の巡礼行には終わり無しか...
六番 平清水 ←《最上三十三観音 七番》→ 八番 六椹

2014-09-26

TOM
ぽんとけりゃにゃんとなくよーいよい
@rondino2106