川前観音
川前観音 附 猿羽根峠
南新庄駅---猿羽根山地蔵堂---猿羽根新道---名木沢---種林寺---亀井田郵便局---すいか橋---亀井田橋---川前観音---納経所
 九月四日。最上巡礼八日の一つ目。回を追う毎に朝の空気は涼しく澄んできている。今日は大石田四所の巡拝だ、と云ってる所が未だ南新庄なのだから先は長い... 紫山で旧道に入る。山刀伐峠以降お世話になった陸羽東線とも、踏切でお別れ。トラックが大きく唸ってくぬぎ坂を上って行った。小国川を渡れば、前面に猿羽根の山... 国道のトンネルを通れば楽だろうが、歩道の無い隧道を四百米も歩きたくない。寸断した峠道を探るのも今回は現実的では無く、三島県令開削の旧国道で越えるを妥当とした...
 ひっそりと猿羽根山の地蔵堂。途中で抜いて行った軽ワゴンの他に、人の気配は無い。御堂の前から最上川が眺められた。ようやく村山郡。ときどき吹き上げる風に、かさかさと納め札がそよぐ... 納め札は最上巡礼のもの。庭月で結願して山形や仙台の方へ帰る人々が、納めていったものらしい。従来、猿羽根山は納め参りの一所であった。以前と比べれば札の数は、めっきり少なくなった感じだが... 石段を下りて三島新道。古い舗装は風化して土に帰し、草が繁り合うた道を慌てて行き交うのは蝶ばかり。轍は明瞭だが幅員は一定しない。淡く穂を揃えた芒たちに見下ろされながら、ゆるやかに下って行く...
 名木沢を過ぎて再び国道を離れる。明治帝御休息の地では一足も休まず、街道と大石田へ向かう道が分かれる種林寺で腰を下ろす。境内は児童公園のよう。ベンチでおにぎり... 野尻川に掛かる橋の袂で行く手を眺めると、川前と思しき辺りに御堂風の屋根を見つけた。屋根の形が違う気ような、実際に是はすぐ裏の最上川ふれあいセンターで、それでも目的地が見えると少しは気持ちが強くなる... 白い蕎麦の花が風に大きくしなる度に、スズメがあたふた飛んで出る。平成十二年、丹生川最下流にすいか橋が掛かった。欄干の西瓜には種が無い、油断すると一寸メロンに見えてしまうのだが...
 清流に臨む川前観音堂。背後のハケツ山には楯があり、観世音を護持した安倍氏の館だったのかも知れない。後に安倍氏は合戦に敗れ、御堂は地元の人々が守り継いだ。最上川こそ絶えることを知らず、寂しいほどに悠々と流れてゆく... 今日は此処までが長かった。唱える経のひと言ごとに安堵するも束の間、時計を見ると正午まであと十五分。納経所へ急ぎ、媼の丁寧な応対に神妙としながらも、昼の前に対岸の深堀の納経所まで駆け込む決意を固めていた... 昭和初期に亀井田橋が掛かるまで、渡し舟があった。寛政の記録では舟賃十五文。現在の鉄橋の隣では、新たな橋脚工事が進んでいる。脇目も振らず後にするのも浅ましく思われ、川を挟んで御堂に一礼...
 御詠歌、おのずから身を清めたる川前の 渡りの舟はぐぜいなるらん。次は亀井田橋を戻り、二十七番の深堀へ。
二十五番 尾花沢 ←《最上三十三観音 二十六番》→ 二十七番 深堀

2014-09-05

TOM
ぽんとけりゃにゃんとなくよーいよい
@rondino2106