浅川観音
浅川観音 置賜第三十三番 附 戸塚山
十月二十四日
川井観音── 浅川観音 泉養院 (── 戸塚山散歩)
 雲が増えても雨にはならぬ筈と、立ち止まって真北に戸塚山を望む。比高およそ百二十米の頂は、東に向かって一直線に長い傾斜を下ろす。合わせて長息をつく。 戸塚山泉養院は山の北東。ほぼ正午の参道に人の影は無い ... 徳一上人の手と伝わる聖観音坐像を秘す浅川観音堂。元は戸塚山の北東尾根の頂上に建ち、現在地へ遷されたのは昭和二十九年だと云う。 参道の石段は段差が大きく、難儀を慮ってか左手に坂道が設けてあった ...
 観音堂は雨除けの囲いはあるものの三方を開け放ち、穏やかな風にも千羽鶴が小さくさざめく。 御堂の内に座して合掌するのは何処ぶりだろうかと思いつつ、鎌倉期の青銅像と云われる観世音を拝す。 縁を結ぶ五色の布は、更に奥の閉じられた厨子の中に繋がる。よろづよのねがひをここにおさめおく みづはこけよりいづるあさがわ ... いつもと変わらぬ静かな結願。この度は脱ぎて納むる笈摺も無ければ、残った蝋燭をみな納めた ...
 御本尊より膝を操って参道の方へ向き直り、東の県境の峰を垣間見る。御開帳の年の置賜三十三観音。 参拝盛況と聞く一方で、出動が平日ばかりだった為か道草が多かった所為か、案外に静かな巡礼行だった。 もう少し道草を増やしても良かったかとも思いつつ、それらは後々のお題に積んでおく ... 別当泉養院は留守だったが朱印は用意してあった。本堂の戸を閉めると半袈裟を外し、そのまま隣の瑞雲院の墓域の端から山道に入る ...
 すぐ鬱蒼としそうな細い道。戸塚山の北東尾根は古い舘の跡。尾根に乗れば堀切を横切る。 標高三〇七辺りの主郭が観音堂の故地。狭い平地だが礎石には気付かなかった。主郭の西側は直ちに大きく下り、登り返しては草を押し分ける ... 山頂の墳丘には蜻蛉が群れていた。後円部の中央へ突き立てた三角点に、秘かに動揺する。 山域に二百もの古墳が集まる祈りの山。その頂上に眠るのは如何なる貴人か、想像に足を滑らせ南へ下る ...
■長井市史編纂委員会『長井市史 第二巻 近世編』1982年
■後藤博『出羽百観音』1996年
■置賜日報社『置賜のお寺めぐり 3市5町の360寺総覧』2001年
■置賜民俗学会『置賜の民俗 第20号』2013年
■米沢市教育委員会『米沢の神社・堂宮 9 上郷地区』2014年

2019-12-19

TOM
ぽんとけりゃにゃんとなくよーいよい
@rondino2106