塩の沢観音
塩の沢観音
深堀観音---黒滝橋---塩の沢観音堂---船橋明神---別当曹源院
 九月四日。最上巡礼八日の三つ目。塩の沢の観音堂へ行くには、黒滝橋を渡る。白く際立つ仏舎利塔は古刹向川寺。以前寄った時には、斯くも名立たる曹洞の大寺すら兼務住職かと驚いたものだが... 最上川を離れて暫く、西山の谷へ入ってゆく。案内板は無い。産廃処理場が見えれば向かって行けばよい。処理場の脇を通過して、御堂への参道が現れる... 木の葉ひとつ無い緑苔の道を踏み行くと、やや造形のゆるい仁王像が迎えてくれた。初めて御堂まで足を伸ばしたのは九年前の二巡目の時。この時は門が修復中で、仁王像は不在だった...
 鳥の声遠く虫も騒がぬ御堂の辺り。整頓された内部には斎藤茂吉の歌が小さく掲げてあった。戦後まもなく当地で詠んだ二首。横ざまにふぶける雪の中を此処まで歩いて来たのか、観音力よわれをな忘れそ... 処理場から観音堂へ通じる道の、東側の丘は塩の沢館の跡。最上勢の延沢氏に攻め落とされ、観音堂にも火が懸かったと伝わる。その火難によるものか、本尊千手観音像は損傷甚だしく、秘して姿を現さず... 御堂を辞して戻る。舗装路を越え、水田の向こうに見える曹源院へ。風が強くなり、ゆらんゆらんと稲穂が波打つ。足元だけは無事にと頼む船橋明神の杜。はや別当の寺に至り、本堂に礼して朱印を請う...
 朱印帳の筆致を繁々と見つめて媼曰く、自分が書くようになって間もない頃の字だと。当時は日々緊張していたと懐かしそうに語っていた。そんな風には見えた事は無い。押印が終わると四弘誓願。小銭を納めかけた手を慌てて引っ込め、合掌... 何気ない会話が三つ四つあった後、心身に沁み入る言葉を頂いた。その場は、どうでしょうねぇと逃げてしまったが、そうであって欲しいと思っている。ただ今は自分で肯定できるほど、性根が出来ていない... 御詠歌、みなひとの心さしくる塩の沢 海より深き恵みなりけり。次は大橋で最上川を渡って、二十八番の大石田へ。
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2014-09-07

TOM
ぽんとけりゃにゃんとなくよーいよい
@rondino2106