富沢観音
富沢観音 附 山刀伐峠
丹生観音---旧高橋小学校---山刀伐峠---赤倉温泉---富沢観音
 八月十二日。最上巡礼五日の二つ目。早めに県道へ戻り、御所神社の前で一礼。赤井川を渡ると、もう峠に向かって気が逸る。淡々と歩くに集中し過ぎて、関谷の番所跡に気が付かず。地図未載の新しい道を辿ってしまった... 山刀伐峠の旧道入口に蓮の切り花を売っている小屋があり、お茶でもどうぞと声を掛けてくれた。地区の方々で道路の向かい側に数種の蓮を育てているとか。今日は天気も丁度いい、峠道も最近刈り払った、と... 山道は「歴史の道」と呼ぶ。上りの前半はほぼ旧車道と重複し、伐採作業が些か興趣を削ぐ。登った気がしないまま再び山道に入れば、むしろ緩やかに下り気味。なるほど辺りは樹木鬱蒼として一鳥声聞かず。代わりに蝉がやかましい... 小さな沢を踏み越えてから真面目に登り始める。沢水は手に冷たかったが飲むには至らず。終いには窮屈なつづら折り。ため息に顔を上げたら、峠の東屋と地蔵堂が見えた...
 東屋からは見晴らしも無く、軽い腹ごしらえと足のテーピングに三〇分ほど過ごす。車の通過する音が一度聞こえただけで、顕彰碑までやって来る人はいなかった... 芭蕉一行が篠を踏み分け、必ず不用の事有りと恐れられた峠も、寛政の巡礼記では幾らか往来が増えていた様に思える。それでも「木の根岩の狭間に足を爪立て往き返る」有様。市野々から赤倉まで山路三里大難所也と... 最上郡側、落葉に埋もれそうな石段は苔むして、十二曲り大曲りと急速に落ちてゆく。深緑の谷を見下ろすと、轟音と共に大型トラックが飛んでいった。たちまちトンネル出口。何かのサイレンが鳴った辺りで一刎の観音堂を通過... いつの間にか空は薄灰色。赤倉温泉で小国川を渡りつつ、酒屋の店先でアイスを食べる。遂に万騎の原の手前で小雨となった...
 幸い雨は然して降りもせず、赤倉温泉駅を過ぎた頃に歩きながら脱いでしまった。札所が近づくと一歩止まるのも煩わしい。見覚えのある並木の奥に東善院の山門。冷たい手水が心地好く、両手交互に何度も清め流した... 最上霊場唯一の馬頭尊。数多い大絵馬の中にも競走馬にまつわる奉納が見える。秘仏本尊は坐像と伝えられる。御開帳と云うても御前立まで。合掌の最中、奥からゴオゴオと唸りながら右から左に駆け抜けてゆく影あり。御堂のすぐ裏は陸羽東線... 納経所は若いお坊さん。前回の参拝では和讃の熱烈な説明を頂戴したが、今回は加賀の千代女の話を少々。瀬見付近の国道は細く歩道も無いから気を付けて、と教えて下さった... 御詠歌、里人のゆたかにすめる富沢の のきばの花も朽ちぬなりけり。次は向町天徳寺、番外の世照へ。
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2014-08-13

TOM
ぽんとけりゃにゃんとなくよーいよい
@rondino2106